食物アレルギーがある人は近年増加しており、日常生活や外食において多くの人が困難を抱えています。しかし、当事者やその家族以外の人にとっては具体的な悩みが想像しづらく、どのように対応すればいいのか悩んでいる外食事業者も多いようです。
そこでCAN EATは、アレルギー当事者にインタビューを行い、日常生活の苦労や工夫、外食時の悩み、飲食店のアレルギー対応について感じていることを伺いました。第2回は、お子さんに小麦や大麦などのアレルギーがあるつばき家の体験談です。
━━ 家族構成とアレルギーについて教えてください。
小学1年生の娘と年少の息子、夫と私の4人で暮らしており、小1の娘は小麦や大麦などの麦類、卵、乳製品のアレルギーがあります。あまり気にしていませんが、花粉症なので季節によってはトマトやパイナップル、キウイなどを食べると口が痛くなるといった症状があらわれることもあります。年少の息子には食物アレルギーはありません。
━━ 娘さんのアレルギーの重さはどの程度なのでしょうか。
小麦と大麦はアナフィラキシーを何度か経験しており、今はまったく食べていません。卵と乳製品は小さい頃は強い反応が出ていましたが、現在は卵の白身2g、牛乳25cc を日替わりで摂取しています。
━━ アレルギーに気づいたのはいつ頃、どのようなきっかけでしたか?
もともとアトピーがひどく、アレルギー体質でした。離乳食が始まる前に血液検査で各アレルギーについて調べたところ、飛び出るような高い数値が出たので、医師の指導を踏まえて食べさせないようにしていました。その後誤食で反応が出たこともあり、やっぱり食べられないんだなと実感していきました。
━━ 外食の際にアレルギーを発症した経験はありますか?
大手の定食チェーンで、五穀米を食べてアナフィラキシーが出たことがあります。そのときはまだ大麦にアレルギーがあるとわかっておらず、ご飯だから大丈夫だろうと思って食べさせてしまったんです。中華料理店では、小麦を原材料とする料理と一緒に蒸されたものを食べたときにアナフィラキシーが出ました。こうした経験を経て、一緒に茹でたものや蒸したものはNG、一緒に揚げたものは大丈夫そうだなとわかってきました。
卵や乳のアレルギーは、ホテルのバイキングで症状が出たことがあります。ウインナー・ハムのアレルギー表示に卵と乳の記載がなかったのですが、実際には入っていて……。怪しいなとは思ったのですが、最近は卵や乳を使っていないものも販売されているので、入っていないタイプなのかなと思って食べたんですよね。
━━ お店側はアレルギー対応をしているつもりでも、できていないこともあるんですね。
原材料に関する理解が足りていないお店が多いのかなと思います。
比較的接客がしっかりしている有名なお肉料理のチェーンでも、アレルギーについて事前に電話で伝えて快諾していただいたにもかかわらず、ミスがあって料理を食べられなかったことがありました。
フィレステーキ御膳を注文したのですが、ステーキにバターが載ったままだったんです。見てすぐにわかったので食べずに済みましたが、煮物などわかりにくいものだったら食べてしまっていたかもしれません。
このときは事前に伝えて快くアレルギー対応をしていただいていたので、お店には伝えずに食べないという対応で終わらせたのですが、このレベルのお店でも、メニューにないものを作ってもらうとリスクがあるんだなと思いました。
他のお店でも、事前に小麦のアレルギーを伝えたのにお味噌汁にお麩が入っていたり、大麦のアレルギーを伝えたのに麦茶が出てきたり……。原材料についてわかっていないんだろうなと感じる場面はたびたびあります。
━━ アレルギー対応にミスがあった場合、お店に伝えるかどうかの基準はありますか?
大きなお店やチェーン店には伝えることが多いですね。バターの件は、がんばって配慮してくださっている様子があったので伝えなかっただけで、普段なら伝える気がします。個人店だったら言わないことが多いです。
━━ なるほど。飲食店に「過去にヒヤリハットがありましたか?」と尋ねると、「ない」とおっしゃるところも多いのですが、実際に起こっていないわけではなく、たまたまお客さんが言わなかっただけなのかもしれませんね。
そうですね。言わない側の心理としては、やっぱり揉めたくないし、お互いに嫌な気持ちになるのを避けたいという思いがあるのかなと思います。お店の対応に不安や不満があるなら、行かなければいいだけですからね。客は言わないまま、お店は知らないままで、終わってしまうケースもあるのではないでしょうか。
━━ 飲食店にアレルギー対応のミスについて伝えるときに気をつけていることはありますか?
お店にも悪意があるわけではないので、感情的にならず、事実を率直に言うようにしています。たとえば「バターは乳製品です。うちは気づいて食べなかったので大丈夫ですが、次からは気をつけてください」といった言い方をします。
━━ では、アレルギー対応のミスについて伝えたときのお店側の反応はどのようなものでしたか?
反応はお店や人によってかなり違いますね。
たとえば、ウインナーに卵と乳が入っていた件では、近くにいたバイトの店員さんに伝えたところ、「わかりました」の一言で終わってしまいました。誰かに伝える様子もなかったので、結局こちらで責任者を呼んで説明しました。責任者の方は「申し訳ありません」とおっしゃっていて、タグも変えてくれたので安心しました。伝わらなかったら伝わり切るまで言うのが大切なのかなと思います。
もちろん、給仕しているバイトの方の中にも、しっかり確認してくれる人もいます。そういう対応を見ると、意識の高いお店なのだなと思い、私の中で評価が上がります。
━━ これまでの外食の中で、アレルギー対応のレベルが高いと感じたのはどのようなお店でしたか?
山梨に行ったときに泊まった旅館やホテルの対応がどれも素晴らしかったです。「醤油は大丈夫ですか。味噌は大丈夫ですか。」と細かく聞いてくれて、さらに、「どんなものが好きですか。どんなものに代替したらいいですか。」と食べられるものまで尋ねてくれました。ドレッシングについても細かく聞いてくれたので、とてもありがたかったです。豆乳のマヨネーズにこんな商品があります、と伝えたところ、用意してくださいました。
━━ 積極的に尋ねてもらえると安心できますよね。他にも旅行中の印象的な経験はありますか?
チェーンのホテルに宿泊したときは、市販のアレルギー対応のパンやミートボールが出てきました。アレルギー対応をしていただけること自体はとてもありがたいのですが、旅行中にも普段と同じものを食べるのは少し味気ないなと感じました。
旅館では、地産地消でその土地のものを使って工夫をしてもらえるとすごくうれしいです。市販の既製品を使えば安心安全なのは理解できますが、それならファミレスに行けばいいなと思ってしまいますね。
━━ それでは、世の中の平均的なアレルギー対応はどのようなものだと思いますか?どの程度のレベルを期待してお店に入るのでしょうか。
アレルギーについて質問したときに、適当な返事をしないことはせめて担保してほしいなと思っています。うやむやにせずに、「シェフに聞いてきます」「メニュー表を持ってきます」と言って行動してくれる。最低限、このレベルは求めたいです。
回答するにしても、アレルギー表などの根拠があるとありがたいですね。ちゃんと確認をしてくれるかどうか、信頼できるお店かどうかが、外食ではもっとも重要だと思います。
━━ 新しいお店を探すのは大変ですか?どのような方法で探しているのでしょうか。
グルテンフリーのものなどが手に入りやすくなってきたからか、昔に比べると困らなくなってきた印象があります。
お店を探すときは、まずは「グルテンフリー」「アレルギー対応」などの文字を入れてGoogle検索やエリア検索をします。ブログを見るときもありますね。
食べログなどの飲食店情報サイトは探すのに時間がかかるのであまり使いません。
━━ お店に入るときは、アレルギーについてどのように確認していますか?
まずは自分でメニュー表を見て、アレルギーの特定原材料が書いてあるかどうか確認します。メニューに書いていない場合は、お店にアレルゲン表があるかどうかを尋ねたり、食べられないものを伝えて食べられる料理があるかを聞いたりします。基本的にメニューや表を見せてもらってからお店に入るかどうか判断していますね。
━━ アレルギーについて尋ねた際に、お店側の回答に不安を感じたらどうしていますか?
明らかにアレルゲンが入っているよなと思うものについて「入っていない」と言われたときは、「めずらしいですね。こんなのあるんですね?」とやんわりと尋ねるようにしています。やりとりをしていて怪しいなと感じたらその店には入りません。
━━ お店に伝える情報は、アレルギーを発症する食べ物の種類(≒アレルゲン)だけでしょうか。調理器具の分け方などにも言及しますか?
お店によって伝える情報の粒度は違いますが、たとえばホテルのお店だったら、アレルゲンだけを伝えて「大丈夫です」と言われればとりあえず利用しています。お店で実際にメニューを見てから、「揚げ油は一緒ですか?」「茹で汁は小麦と共有していますか?」というように具体的に尋ねますね。
━━ 結婚式や立食パーティーなど、当日まで何が出てくるかわからない場合はどのようにアレルギーを伝えているのでしょうか?
アレルゲンに加えて、「茹で汁はダメ」「洗い物は一緒でもOK」「調理器具も新しくなくてOK」といった具体的な条件も伝えます。詳しく伝えているので、過去に出席した結婚式では、子どもに出来合いのアレルギー対応食が出てきたことがあります。あとはお刺身などシンプルなものが多いですね。「塩胡椒だけで味付けをするので、しょうゆやマヨネーズは自宅から持ってきてください」と言われたこともあります。
━━ 調味料の持ち込みに対してはどのような印象をお持ちですか?
持ち込みOKと言ってもらえるほうが楽です。式場のものを使ってアレルギー事故が起きてしまったら迷惑をかけることになるので、持ち込みNGは怖いですね。
━━ ご自宅での食事では、普段どのようなことに気をつけていますか?
小麦粉は家には一切持ち込まないようにしています。米粉、片栗粉などと見た目が紛らわしく、誤食につながるリスクがあるからです。でも、ミルク入りチョコレートやパスタなどの既製品は置いてあります。娘がいないときに食べるようにしています。
━━ 食品工場や調理上でのコンタミネーション(微量混入)は意識していますか?
工場でのコンタミネーションは気にしていませんが、調理上のコンタミネーションは避けています。混ぜたお箸は別にしたり洗ったり……。カレーもおたまは別にしていますね。
蓋を取り違えないようにすることも心がけています。でも、子ども用の調理器具があるわけではなく、基本的には洗うだけです。食洗機も電子レンジも普通に使っています。
━━ ご家庭で誤食をしたのは、どのような場面でしたか?
認知症の祖母が娘にかりんとうを食べさせてしまい、アナフィラキシーを発症したことがあります。あとは娘が勝手に食べて発症したり、私たちが原材料を見落としていたケースもありますね。調理上のミスで発症したことはありません。
━━ アレルギー当事者の家族でも、見落とすことがあるんですね。
原材料のチェックでは、特定原材料でない食品で見落としが発生しやすいです。以前、食べさせた水飴が、実は大麦原料だったことがありました。「麦芽エキス」「麦芽糖」の文字を見落としていたんです。大麦は特定原材料ではないので、アレルギー表示がされないんですよね。
小麦は「小麦」の表記で判断しますが、大麦は「麦芽エキス」「大麦」「麦茶」「押麦」など、さまざまな種類があるので、毎回注意して確認しています。
━━ いろいろな単語に変換しなければならず、特定原材料ではない食品のチェックは大変ですね。
家でも注意しなければミスをするので、外食ではもっと怖いですよね。たとえば最近はグルテンフリーの米粉パンやクッキーがよく売られていますが、実は大麦を使っているものもあります。オーツ麦を使っている健康志向のパンもありますね。
食品表示をしっかり見ればわかるとおっしゃる人もいますが、たとえば「でんぷん」でも、小麦のでんぷんなのかじゃがいものでんぷんなのか、大麦のでんぷんなのか。そういった細かい情報は書いていないことも多く、知りたい情報を得るのはそう簡単ではありません。
アレルギーに関する正しい情報がもっと簡単に得られる社会になればいいなと思います。
アレルギー当事者インタビューvol.1はこちら
食物アレルギー、ベジタリアン、ヴィーガン、健康上の理由などの
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