長女の食物アレルギーをきっかけにNPO法人アレルギーっこパパの会を設立し、外食事業者のアレルギー対応支援において数々の実績を誇る今村慎太郎さんによる連載コラム、第1回。食物アレルギーと共に生きることの大変さとこれからの社会への展望について語ってくださいました。
「うちでは手に負えないので、すぐに大きな病院に行ってください」━━。
10年前、娘のかかりつけ医が口にしたこの言葉が忘れられない。娘の食物アレルギーを告げられた一言だ。
この医師がさじを投げたのではないと今になって理解できるようになったが、「手に負えない」と聞いたときの非現実的な世界にいるような感覚が今でも残っている。
大半の人が食物アレルギーに抱く大変さは、想像を超えるものだった。あれから10年。発症原因となる食品にアンテナを張り巡らせる生活にはずいぶん慣れたが、今でも、食物アレルギーと診断されてからの日常が普通に過ごせない孤立感や疎外感は、完全には消えていない。
2013年に会社員を辞め、NPO法人アレルギーっこパパの会を立ち上げた。新聞や雑誌に被害者的構図でコメントが掲載されることもあったが、立ち上げたときから、誰かを非難する気持ちは一切ない。自分が不運とも思わない。これまで続けてきた原動力は「なぜ社会は食物アレルギーに対応できないのか」という個人的とも言える問いの探求だけだった。
たくさんの食物アレルギーと生きる家族に出会ってきた。皆、「子どもが食物アレルギーになるまで、食物アレルギーのことは知らなかった」と口を揃える。この「知らなかった」は、「想像する以上に生活が困難なものだ」ということを意味するのだろう。当事者になって、生きづらさを実感する食物アレルギー。だから経験していない人に「大変だね」と言われることに違和感を覚え、苛立ちを感じる人がいるのだろう。
当事者と非当事者の溝。「なぜ社会は食物アレルギーに対応できないのか」という問いに、この溝は大きく関係しているように思う。しかし、この溝を埋めなくても社会は食物アレルギーに対応できるようになるはずだと信じている。そして、それはそう遠くない未来に待っていると感じる今日この頃である。
<著者情報>
今村慎太郎
長女の食物アレルギーをきっかけに、2013年にNPO法人アレルギーっこパパの会を設立、理事長に就任。外食事業者のアレルギー対応支援、食物アレルギー領域での新規事業立ち上げ、障害者就労支援施設の支援などを行う。
日本マクドナルドのアレルギー検索システム構築のアドバイス、森永製菓、第一屋製パンとの新規事業立ち上げ、障害者就労支援施設でのアレルギー対応食品製造などを行う傍ら、100名規模の参加者全員のアレルゲンに対応した外食イベントを外食事業者と連携して開催している。『HOTERES(週刊ホテルレストラン)』ではコラムの連載を4年半継続した。
<NPO法人アレルギーっこパパの会とは>
「食物アレルギーの子どもたちのリスクと疎外感のない社会」「アレルギー対応ができる企業がアレルギーのない人たちから選ばれる社会」を目指して活動するNPO法人です。https://arepapa.jp/about/
NPO 法人アレルギーっこパパの会 https://www.arepapa.jp/
食物アレルギー、ベジタリアン、ヴィーガン、健康上の理由などの
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