大阪府箕面市は、全献立において卵、牛乳・乳製品、小麦・小麦製品、えび、かに、そば、落花生(特定原材料7品目)を調理に使用しない「低アレルゲン献立」を実施しています。箕面市で5年以上、管理栄養士として学校給食に携わってきた白井さんに、低アレルゲン献立を導入した理由やメニューの工夫について伺いました。
━━ 多くの子どもが同じメニューを食べられる低アレルゲン献立は、現場の負担を少なくしながら事故を防止できる非常に画期的なアイデアだと感じました。考案したきっかけは、どのようなものだったのでしょうか?
平成24年に東京都調布市の小学校で、粉チーズ入りのじゃがいものチヂミを食べた児童が死亡するアレルギー事故が起こりました。その翌年、平成25年に箕面市では中学校給食をスタートすることになっていたので、給食を提供するにあたってどのようにアレルギーに対応するべきか、改めて検討する必要がありました。
当初は一人ひとりの生徒のアレルギーに個別に対応して除去する方法を考えていたのですが、門真市の保育所で実施された卵・牛乳・小麦を最初から使わないメニューを提供する「なかよし給食」の事例を知り、こちらのほうが事故を防げるのではないか?と考えるようになりました。低アレルゲン献立を検討し始めたのはその頃です。
━━ では、低アレルゲン献立を実施する以前は、どのようにアレルギー対応を行っていたのでしょうか。課題は感じていましたか?
もともと小学校給食ではアレルギー対応を個別で行っていました。たとえば献立に八宝菜があり、そこにアレルギーのある食材が使われている場合には、対象の食材のみ除去したおかずを提供するという方法です。
しかし、アレルギーのある児童は近年増加傾向にあり、除去おかずの対象者はどんどん増えていました。また、アレルギーの種類も増加し、現場の対応も複雑化していたので、事故が起こらないかとても心配でした。できるだけ全員が同じものを食べられる給食のほうが安全だと感じていました。
━━ 全給食を低アレルゲン献立に変えるとなると、さまざまなハードルがあるのではないかと思います。実現にいたるまでに、どのような過程があったのでしょうか。
低アレルゲン献立の構想をふくらませてはいたものの、全員の給食をアレルギーのある子どもに合わせたメニューに変えるという大胆な施策は影響が大きいですし、価格の問題もあるので、すぐには実施できませんでした。
平成29年7月に試しに1ヶ月実施してみたのですが、そのときは給食費が上がってしまって厳しいなと感じましたね。でも、その間に事故が一度も起こらなかったので、取り組みを続けていきたいと思いました。毎日でなくても、全種類でなくても、できるところから少しずつやっていこう、と。
━━ 試行錯誤を続けていったのですね。本格的に実施できるようになったのはいつ頃ですか?
何度も試作して研究を重ね、平成30年4月からは全献立実施日の50%で、調理に卵、牛乳・乳製品、小麦・小麦製品、えびを使用しない献立を実施できるようになりました。続けていくうちに、給食費の範囲内で、おいしさも栄養価も落とさずに低アレルゲン献立を実現できる見込みが立ったので、平成31年1月からは、全給食を低アレルゲン献立として実施しています。それから1年以上が経過し、献立のレパートリーが積み上がってきたところです。
<献立例>
━━ 低アレルゲン献立を実施するにあたって、反対意見はありましたか?
子どもにいろいろなものを食べる機会を経験してもらうことも給食の目的なので、「食材やメニューのバリエーションが制限されることが本当によいのか」という懸念の声もありました。少数のアレルギーがある子どもを守るために、全体が損をすることになるのではないか、と。
しかし、箕面市は、人命優先を前提として「多くの子どもが共通して食べられる献立が学校給食として最良である」という考えに立ちました。まず何よりも命を守りたいという気持ちで、市長と教育委員会、学校栄養士などが一丸となって取り組んでいます。
━━ おいしさに栄養価に、コスト。特定原材料7品目を使用せずにすべてを両立させるには、たくさんの苦労があったのではないかと思います。特に大変だったことを教えてください。
具体的な食材でいうと、米粉の取り扱いが難しかったですね。たとえば天ぷらの衣として使ってみても、だらけてしまってちゃんとした衣にならなかったり。マカロニをつくるときも、きれいに整形できないという問題がありました。今は上手く扱えるようになりましたが、1年経ってようやく慣れてきたという感じです。
米粉は、カレーやハヤシライスのルーにも使用していますが、味が変わってしまうので、コクや香ばしい風味を出すためにどうすればいいか悩みました。調理法や材料の試行錯誤を重ねた結果、今ではおいしいカレーをつくれるようになりました。
<米粉を使った野菜カレー>
━━ ルーまで手作りにこだわっているのですね。試作中はコストが課題になっていたようですが、どのように解決したのですか?
コストのネックも米粉でしたが、バターや粉チーズの代替品として菜種油を使用するなど、他の部分でコストが下がったため、全体としては相殺できました。
━━ なるほど。自然な形で費用内に収まったのですね。 でも、代替したとしても、使える食材が限られていると、栄養バランスを保つのは難しいのでは?どのように工夫されたのでしょうか。
低アレルゲン献立を実施することによって、もっとも摂取しづらくなった栄養素はカルシウムでした。そのため、大豆、ごま、緑黄色野菜、小魚など、さまざまな食材を駆使して補い、今も低アレルゲン献立を始める前と同じ栄養レベルを維持できています。
一方で、大豆やごまのアレルギーがある子どももいるので、1週間に使用する回数を決め、できるだけ同じメニューを食べられるように配慮しています。
━━ アレルギーのある子どもに配慮しつつ、栄養価を維持しているのですね。その絶妙なバランスを保つためには、メニューを考えるのが大変そうですが、どのように開発しているのですか?
栄養教諭や栄養士が開発しています。その内容を教育委員会が確認し、正式に決定する流れです。2ヶ月に一度、学校栄養士16名で話をする機会があるので、具体的なメニューについてはその会議でよく話し合っています。
━━ 低アレルゲン献立に 1年以上取り組んでみて、感じていることはありますか?
低アレルゲン献立を始めてから、事故は減少しましたが、やはり、どれだけ気をつけても工夫しても、100%の安全ではないということは心に留めておかなければならないと常々感じています。
一番怖いのが、おかわりでの誤食です。低アレルゲン献立とはいえ、すべてのアレルギーに対応しているわけではないので、危機感を持ち続ける必要があります。どのように誤食を減らしていくか、これからも積極的に考え、模索していきたいです。
<参考>
箕面市の低アレルゲン献立について:https://www.city.minoh.lg.jp/kyushoku/teiarerugen.html
箕面市給食ブログ:https://blog.goo.ne.jp/minohpakupaku
CAN EAT調査リリース「園や学校のアレルギー対応に不満がある家庭は4割弱。情報提供やヒアリングを通した主体的なサポートが重要」:https://about.caneat.jp/news/20200828/
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