【消費者庁インタビュー】外食・中食の食物アレルギー対応で気をつけるべきポイントは?アレルギー表示に関する最新情報や事故事例についても解説

食品表示制度を管轄する消費者庁では、外食・中食の食物アレルギー対応について多くの人に知ってもらうため、パンフレットや動画を通して啓発活動を行っています。昨今の消費者庁の取り組みや、食物アレルギーの傾向・事故事例、外食・中食を提供する事業者や食物アレルギー当事者の皆さんに伝えたいことについて詳しく伺いました。

 

お話を伺った方

消費者庁食品表示課  宇野真麻さん        
           野中 紀鷹さん

 

■外食・中食の食物アレルギー対応の現状について教えてください。

現在日本には、加工食品を対象とした食物アレルギー表示制度があり、発症数等から勘案して表示する必要性の高い28品目の食品については、アレルギー表示が義務化・推奨されています。

一方、外食・中食のアレルギー表示は任意であるため、取組が広まっているとは言いがたく、食物アレルギーの危険性を正しく把握していない事業者も数多くいます。

 

昨今は取り組む事業者が少しずつ増えてきていますが、一部の飲食チェーンや規模の大きなホテルなどに限られており、アレルギー患者が安心して外食を利用することが難しい状況が見られます。

 

また、アレルギー患者の皆さんの中にも、外食・中食のアレルギー事故リスクや日頃から注意すべき事項について正しい知識を持っていない方がいます。

 

事業者とアレルギー患者の双方が正しい知識を持ち、事故が起こらないように注意しあうことが大切です。

 

■外食・中食の食物アレルギー対応に関して、消費者庁では具体的にどのような取り組みを行っているのでしょうか。

アレルギー疾患対策基本法(平成26年法律第98号)をもとに策定された「アレルギー疾患対策の推進に関する基本的な指針(平成29年3月21日策定)」が令和3年度に一部改正され、以下、赤字箇所が追記されました。

 

「外食・中食おける食物アレルギー表示については、それらを利用する消費者の需要や誤食事故等の実態に基づき、関係業界と連携し、実行可能性にも配慮しながら、外食事業者等が行う食物アレルギー表示の適切な情報提供に関する取組等を積極的に推進する」

 

この指針に基づき、消費者庁は事業者に食物アレルギーの危険性や食物アレルギーに関する情報提供の重要性を伝えると同時に、アレルギー患者の皆さんにも外食・中食における現状や気をつけるべきポイントを知っていただくため、さまざまな啓発活動を行っています。

 

令和4年度には外食・中食事業者向け消費者向けの2つのパンフレットを作成し、令和5年度には外食・中食事業者向けと消費者向けの啓発動画を公開しました。また、令和6年度末には、事業者向けにより具体的な内容を伝える動画を公開する予定です。

▼外食・中食事業者向けパンフレット

https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_sanitation/allergy/assets/food_labeling_cms204_230324_03.pdf

▼消費者向けパンフレット

https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_sanitation/allergy/assets/food_labeling_cms204_230324_04.pdf

▼QRコード

 

▼啓発動画の一例

 

パンフレットは、厚生労働省の協力の下で、全国の中心拠点病院や都道府県アレルギー疾患医療拠点病院において患者に配布してもらっています。また、農林水産省の協力の下で、地方公共団体や関係団体において講習会等でも配布・活用してもらっています。消費者庁ホームページや消費者庁YouTubeでも無料で公開しておりますので、ぜひご活用ください。

 

■これらの啓発活動を通して、外食・中食の事業者にもっとも伝えたいことや期待していることは何でしょうか。

まずは、患者さんが外食や中食を利用しづらく困っている状況を知り、お客さんに対して食物アレルギーに関する正確な情報提供をしていただきたいと考えています。

 

お客さんから原材料を尋ねられたときに正しい回答ができるように、メニューに含まれる食品を把握するための商品規格書を作成し、「正しい情報を伝える」ことを意識していただきたいです。曖昧な回答をせず、わからないときには「わかりません」、対応できないときには「対応できません」と伝えることも、時には必要だと考えています。

 

提供する情報の内容は、まずは一次原材料だけで、調味料の原材料までは情報提供しないと決めることも1つの方法だと考えています。アレルギー患者の困りごとについて知っていただき、第一歩を踏み出すところから始めていただけたら嬉しく思います。

 

■外食・中食の食物アレルギーについて、最近の事故事例にはどのようなものがあるのでしょうか。

よく耳にするのは、ビュッフェのトングに関連したアレルギー事故です。ビュッフェのトングは不特定多数の人が使用しており、目の前のひとつの料理だけでなく、ほかの料理をとるために使い回されることがあります。その際に付着したアレルゲンから発症してしまうケースがあると聞きます。アレルギーがある人は、トングが使い回される可能性があることを念頭に置いた上で、店を利用するかどうかも含めて慎重に検討する必要があるでしょう。

 

ほかにも、事業者がアレルギーに関する正しい知識を持っておらず、お客さんに間違った情報を伝えてしまうケースも聞きます。たとえば「乳は使用していますか」とお客さんに尋ねられ、「使っていません」と答えたものの、実際には乳製品であるチーズを使っていたためアレルギーを発症した、といった事例です。従業員が、チーズは乳を原材料にしていることを知らない場合もあるようです。落花生とピーナッツが別物だと認識している従業員もいると聞きます。

 

これらの事例からもわかるように、アレルギー事故を防ぐためには事業者と患者の双方の注意が欠かせません。患者さんからも、質問の仕方を工夫することで事故をより防ぐことができると考えています。

 

■万が一お客さんが食物アレルギーを発症した場合、店側はどのような緊急対応をとればよいのでしょうか。

食物アレルギーはいのちに関わるものなので、具合が悪くなった方がいる場合は臆せず救急車を呼んでもらいたいと考えています。事業者の中には大ごとになるのを避けたいという心情からか、救急車を呼ぶことを躊躇する人もいると聞きますが、対応が遅れると取り返しのつかない事態になりかねません。

 

以前、飲食店従業員の方から伺ったお話では、店内にたまたま医療関係者がいたおかげで、緊急対応がスムーズに進んだ事例がありました。救急隊員ができるだけ早く店内にたどりつけるように道案内をしたり、エレベーターにすぐに乗れるように調整したりと、従業員とお客さんが協力しあって時間のロスを防いだそうです。

 

いつもこのようにスムーズに対応できるとは限りませんが、緊急時にどのように動くべきか、事前に決めておくことが必要だと考えます。

 

動画「事故が発生したら」

 

■2024年3月には「マカダミアナッツ」がアレルギー表示を推奨する「特定原材料に準ずるもの」に加えられ、同時にそれまで推奨品目であった「まつたけ」が削除されました。この改正の背景を教えてください。

食物アレルギー表示を義務化・推奨する食品の追加・削除については、3年に一度おこなわれる全国実態調査の結果をもとに決定しています。表示を推奨する食品に新たに加える場合は過去2回分、削除する場合は過去4回分の症例数の推移を確認し、加えるべきかどうか、削除するべきかどうかを慎重に検討します。義務化・推奨される食品が増えすぎると事業者の負担が過度に大きくなり、表示も見づらくなってしまうので、バランスを見ながら追加・削除を行っています。

 

昨今はナッツ類(木の実類)の症例数が急速に増加しており、令和3年度の調査では、くるみ、カシューナッツ、マカダミアナッツの順で症例数が多くなりました。調査結果と流通実態等を加味しながら、「マカダミアナッツ」を推奨品目に加える運びとなりました。

 

逆に「まつたけ」は4回連続で症例数がゼロという結果が出たため、削除することにしました。「まつたけアレルギー」の診断を過去に受けたことがある人がゼロになったわけではありませんし、実態調査は全数調査ではないため、新たに発症した人が日本に一人もいないと言い切れるわけではありません。ただ、ほかの推奨品目と比べて症例数が極めて少ないため、削除という決定にいたりました。

■「マカダミアナッツ」と「まつたけ」が入れ替わったことで、「特定原材料等28品目」の品目数は変わらないまま、中身が変化しました。改正からまだあまり時間が経っていないため、「まつたけ」を含む以前の「特定原材料等28品目」と「マカダミアナッツ」を含む最新の「特定原材料等28品目」が混在している状況です。両者をわかりやすく区別するために、事業者はどのような工夫をすればよいのでしょうか。

 

表示対象の品目数を示すことは義務ではありませんが、よりわかりやすく親切な表示にするためには、表示している「特定原材料等28品目」が何月何日の時点のものなのかを示したり、食品のイラストやピクトグラムを利用したりして、表示の範囲を明確にするとよいと思います。

 

特定原材料のUCDA認証ピクトグラム「みんなのピクト」

■事業者の中には、食物アレルギーは特定原材料等28品目でしか発症しないと考えている人もいるようです。この点について、どうお考えでしょうか。

アレルギー表示が義務化・推奨される28品目に該当しない食品であっても、アレルギーを発症する可能性はあります。近年は、ピスタチオナッツなどナッツ類に属する食品のアレルギーについてよく耳にします。

 

どの食品でもアレルギーを発症する可能性はあるため、「28品目以外だからいっさい気をつけなくていい」というわけではありません。お客さんに使用食材などを尋ねられた際には、28品目以外であっても内容を省略せずに正しい情報を提供していただきたいです。

 

■今後、特定原材料等の品目が増えるとしたら、どの食品が加わりそうでしょうか?

令和6年度の全国実態調査の結果が出てから慎重に判断することになりますが、ナッツ類の中で「くるみ」の次に症例数が多い「カシューナッツ」は、近いうちにアレルギー表示が義務化される可能性が高いと考えています。令和3年度の調査では症例数が食物アレルギー全体の2.9%を占めており、継続的に増加している傾向もあります。

 

現在、公定検査法の開発にも取り組んでおり、義務化を想定した準備を進めているところです。

 

なお、カシューナッツは、現在「特定原材料に準ずるもの」であることから、一部の事業者は食物アレルギー表示を行っていない現状があります。事業者に対しては、現時点で表示について強く推奨する旨をお伝えしていきたいです。

 

■最後に外食・中食事業者とアレルギー当事者の皆さんへメッセージをお願いします。

〜外食・中食事業者のみなさんへ〜

外食・中食の食物アレルギーに関する取組は事業者によって大きなレベル差があり、アレルギーそのもののリスクを把握していない人も多いのが現状です。まずはアレルギー患者が世の中にたくさんいて、外食・中食を利用するときに困っておられることを知っていただきたいと考えています。


アレルギーに関する正しい情報提供を行うことによって、これまで外食や中食を利用できなかった人たちがお店で食事を楽しめるようになるかもしれません。


「食事を提供してお客さんに楽しい時間を過ごしてもらう」というのは飲食店の本来の役割ではないかと思います、より多くの人においしい食事と楽しい時間を提供できるように努めていただけるとありがたく思います。

 

〜アレルギー患者のみなさんへ〜

外食・中食事業者は、その規模や調理環境などが非常に多様であることから、食物アレルギー表示の法的義務がありません。

 

事業者によってアレルギー対応のレベルには大きな差があり、すべてのお店で丁寧な情報提供を行っているわけではないため、ご自身やご家族で細心の注意を払ってお店を選択したり、注文をしたりする必要があります。

 

また、たとえば「ビュッフェでは一つのトングが複数の料理に使用される場合がある」といった細かい注意事項や、具体的にどのような場面でリスクが発生しやすいかといった詳しい情報を医師がすべて伝えてくれるわけではありません。ご自身でも、外食・中食をするときのポイントを理解するようお願いします。


<外食・中食を利用するときのポイント>
・誤食のリスクが潜んでいます!
・お店が提供している食物アレルギー情報が常に正しく、 常に最新である保証はありません
・アレルギー情報の確認は、責任者等、 食物アレルギーに詳しい店員さんにしましょう
・食物アレルギーであることをきちんと 伝える工夫をしましょう
・お店では調理中に原因食物(アレルゲン)が 混入することがあります
・誤食を防ぐのは、自分自身であるという意識をもって、 外食・中食を楽しみましょう

 

事業者だけではなくアレルギー当事者のみなさんも、アレルギーが発症しないようにするためにどのような行動をとればいいか考え、注意しながら生活していただければ幸いです。

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