イスラエル、アメリカ、ロシアなどで信仰されるユダヤ教には、肉を中心にさまざまな食事制限・タブーがあります。厳格な食事規定「カシュルート」と食べてよい食べ物「コーシェル(コーシャ)」に合わせた食事を提供することが大切です。規定の内容を理解した上で、ユダヤ教徒の方々によろこばれる調理やおもてなしができるように工夫していきましょう。
ユダヤ教徒の食事には、食事内容・作法ともに戒律にもとづく厳格なルールがあります。聖書には食べてよい生き物と食べてはいけない生き物が明確に記載されており、それらを守ることによってユダヤ教徒は強固なアイデンティティーを確立し、維持してきました。
食事規定は「カシュルート」、食べてもよいとされる生き物は「コーシェル」(コーシャ、コーシャー、カシェル、カーシェールなどと呼ばれることもある)、ユダヤ教上適切に処理された食事は「コーシャミール」と呼ばれます。コーシャミールは機内食では提供されますが、日本国内では手に入りにくいため、厳格な信者は旅行中に苦労することも多いようです。一般的な信者には、肉類を避けて魚や野菜を中心とした料理を提供するとよいでしょう。
ユダヤ教徒の日常的な食事のメニューは、チキンスープや野菜の煮物、詰め物をした魚、白パンなどです。コーシェルが手に入りやすい地域にまとまって住むことが多く、ユダヤ教徒が多い地域には専門のレストランが立ち並びます。
「サバス」と呼ばれる安息日や祝祭日にはメニューが決まっているほか、一切食事をしない断食日もあるなど、宗教を土台として食生活が形作られています。食前には手を洗い、祈りを捧げるのも一般的な慣習です。
コーシェルに属する動物は「ひづめが2つに割れていて、反芻するもの」と規定されています。豚はこれに当てはまらないため、ユダヤ教徒は食べません。豚の肉や骨を利用した出汁やスープ、ソース、エキス、豚の脂肪であるラードなども禁忌の対象となるため、調理の際には注意しましょう。
ユダヤ教では血液を口に入れることも禁じています。肉や魚を調理する際には、しっかり血抜きを行った上で焼き加減に気をつける必要があります。たとえばレアステーキのような血の色がみえるメニューは避けてください。
「乳製品と肉が同時に胃の中にあってはならない」という決まりもあります。これは聖書の「子山羊を、その母の乳で煮てはならない」という文言から生まれた規定と考えられており、具体的には下記の行為が禁忌とされます。ユダヤ教徒向けの献立やメニューを考えるときには見逃せないポイントです。
<禁忌>
・乳製品と肉が入った料理(シチュー、チーズハンバーグなど)を食べること
・同じ献立のなかに乳製品を使った料理と肉料理が同時に存在すること
・乳製品と肉を同じ器具を使って調理すること
・肉料理を食べてから時間を空けずに乳製品を食べること(逆もしかり)
ユダヤ教にはシェヒターという屠殺に関する規定があります。専門の資格を有する屠殺人によって屠殺された上でさまざまな検査をクリアし、厳格に管理された肉のみが本来はコーシェルとして認められます。
地域によっては適切な処理がなされた肉を手に入れることが困難なので、規定の遵守を徹底する信者のなかには、肉類を食べることそのものを避ける人もいます。
海の生き物では「ヒレとウロコのあるもの」のみがコーシェルとして認められています。イカ・タコ・エビ・カニ・牡蠣、その他貝類全般はタブーであり、口に入れないのが一般的です。
日本食では刺身や寿司、酢の物、イタリアンでもパスタやピザなどにはコーシェルではない食材がしばしば使われるため、メニューを決める際には十分に考慮しましょう。「カニカマ」のように禁忌とされる食材を想起させる食材やメニューもNGです。
ウサギ、ラクダ、イノシシ、ハゲワシ、昆虫類、肉食動物(ライオンなど)も食べてはならないと規定されています。日本の食文化においては食べる風習のないものがほとんどですが、ジビエ料理などで特別な食材を使用する際には注意しましょう。
人によって信仰の度合いや慣習が異なるため、食べられるものと食べられないものをなるべく事前に把握した上でメニューや調理方法を考えてください。肉全般を食べないのか、牛肉や鶏肉、羊肉なら食べるのかなど、肉の扱いについてはとくに詳しく聞いておくとよいでしょう。
詳しく把握できないときや人数が多いときには、肉類やイカ・タコなどの一部の魚介類を避けた上で、野菜と魚を中心としたメニューを提供するのが無難です。
注文時や提供時には、肉類を中心に料理に含まれる食材・含まれない食材について丁寧に説明しましょう。説明を受けることで、安心して食事ができるようになります。
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