長女の食物アレルギーをきっかけにNPO法人アレルギーっこパパの会を設立し、外食事業者のアレルギー対応支援において数々の実績を誇る今村慎太郎さんによる連載コラム、第2回。食物アレルギー対応において重要な「彼を知り、己を知り、正しく恐れる」ことについて語ってくださいました。
想像を超えた新型コロナウイルスの感染拡大に世界中が右往左往している今、食物アレルギーの話は多くの人にとっては差し迫って大切な話題ではないだろう・・・と思いながらこのコラムを書いている。いつか状況が落ち着いたときに、このコラムがアレルギー対応に四苦八苦している人のヒントになったらいいと思う。
中国春秋時代の兵法書「孫子」に「彼を知り己を知れば百戦殆からず」という言葉がある。相手を知り、自分を知っていれば、戦いに敗れることはないという意味だ。アレルギー対応にも通じるところがある。
アレルギー対応に関する相談が外食企業から届くことがある。残念ながら相談の大半は、事故が起きてしまったあとだが、経緯を聞くと、自分のことを知っていても、相手のことを知らないことが多い。自分のことすら知らないときもある。彼も知らず己も知らずだから、起こるべくして起こっている。
一方、事故を起こすことなくアレルギー対応に挑戦し続ける料理人が私の身近にいる。来店客の「彼」、従業員を含めた「己」をよく知ろうとする人だが、この料理人に、アレルギー対応で大切にしていることを根掘り葉掘り聞いたことがあった。
すると、この料理人は「アレルギー対応はいつも恐い」と言ったのである。数えきれないほどのアレルギー対応をしていながら、そういう感覚を持っていることに驚いたが、今になって考えると「正しく恐れる」に近い感覚だと思う。この話を聞いてからというもの、アレルギー対応で大切なことは、相手を知る、自分を知る、正しく恐れるだと考えている。
「相手を知る」は、食物アレルギーがある人の具体的な食べられない食材や希望する対応方法を知ること。「自分を知る」は、自分たちにできる対応を知り、説明できるくらいに理解すること。そして、「正しく恐れる」は、相手を知り自分を知ったうえで、料理を届け終わる瞬間まで常に疑うことである。
新型コロナウイルスは、緊急事態宣言にまで至ってしまった。彼を知ることができず、彼を知らないから自分を知ることもできず、正しく恐れることもできない。ただただじっとしているしかないのだろう。早く普段の生活に戻れるよう願うばかりだ。
<著者情報>
今村慎太郎
長女の食物アレルギーをきっかけに、2013年にNPO法人アレルギーっこパパの会を設立、理事長に就任。外食事業者のアレルギー対応支援、食物アレルギー領域での新規事業立ち上げ、障害者就労支援施設の支援などを行う。
日本マクドナルドのアレルギー検索システム構築のアドバイス、森永製菓、第一屋製パンとの新規事業立ち上げ、障害者就労支援施設でのアレルギー対応食品製造などを行う傍ら、100名規模の参加者全員のアレルゲンに対応した外食イベントを外食事業者と連携して開催している。『HOTERES(週刊ホテルレストラン)』ではコラムの連載を4年半継続した。
<NPO法人アレルギーっこパパの会とは>
「食物アレルギーの子どもたちのリスクと疎外感のない社会」「アレルギー対応ができる企業がアレルギーのない人たちから選ばれる社会」を目指して活動するNPO法人です。https://arepapa.jp/about/
NPO 法人アレルギーっこパパの会 https://www.arepapa.jp/
食物アレルギー、ベジタリアン、ヴィーガン、健康上の理由などの
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