CAN EATサポーターとして、栄養学×経営学で食を科学的・社会科学的側面から学ぶ、フードマネジメント科の大学生ふーりんさん。アルバイト先の中華料理屋のキッチンでアレルギーがあるお客様に対応したときのエピソードについて語ってくれました。飲食店の経営者ではなく、ひとりのアルバイトの立場として、現場での出来事とそのときのリアルな気持ちを伝えます。
私は、大学1年生の夏ごろから中華料理店のキッチンでアルバイトをはじめました。ランチもディナーも団体のお客様がメインのお店だったため、落ち着く暇もなくオーダーをさばいていたことを覚えています。そのため、わからないことを質問しにくい状況で、料理の作り方が曖昧になってしまい何度か注意を受けました。
細かな研修はなく、先輩たちと仕事をしながら覚えていくOJT形式。人手が来店客数に対して充分な人数ではなかったため、揚場や蒸し場、前菜、仕込みなどすべてのポジションの仕事をできるだけ早く身につけなければならない環境でした。アレルギー対応に関する指導も事前にはなく、初めて注文が入ったときにその場で対応方法を教わりました。
アレルギーがある方向けの料理は社員の方や勤務歴の長いパートの方が熟知しており、判断はその方々を中心に行われます。お子様ランチなどアレルギー対応のマニュアルは、普段目につかない所へ保管されていたため、誰もが気軽に確認できる体制ではありませんでした。
アルバイトを始めて約3ヶ月経った頃。エビアレルギーがある方を含めた5、6名の団体客が新規で入店しました。当時はメニューの調理工程を覚え始めたばかりで、厨房内のどこにどの食材があるかまだ不明瞭な状態でした。
そんななか聞こえてきたのが、「○○コースのお客様の一人は豚しゅうまいでお願いいたします!」というホールスタッフのいつもと違う口調のオーダー。”エビアレルギー”と書かれた赤色の伝票シールをオーダー板に貼って注文が入りました。
まだ余裕を持って調理に取り組める状態ではないのに、「また新しいことを覚えないといけないのか」と内心そわそわすると同時に、間違えたら大変だと緊張しました。周りのホール・キッチンスタッフにも、張り詰めた空気が流れていました。
団体様が注文したのは、点心をエビしゅうまい・カニしゅうまい・豚しゅうまいの3つから選べるランチ。そのうち、アレルギーのない方はエビしゅうまいを頼んでいました。危うく私は、豚しゅうまいをオーダーしたエビアレルギーの方にエビしゅうまいを提供しそうになりました。
ミスを犯しそうになったのは、どのしゅうまいも一見同じ色・形をしているため見分けがつきにくく、配膳時に取り違えを起こしそうになったからです。パッケージラベルの表記がなければ見分けが難しい商品だったのです。
豚しゅうまいを確実に甲殻類アレルギーのお客様が口にできるよう提供するためには、キッチンがホールに向けて「これがエビアレルギーのお客様用です」と、セイロに伝票シールを貼ってしっかり明示しなければいけません。しかし私は、ひとまず蒸し器から取り出してお皿に載せようとしたとき、しゅうまいの種類の判断に迷ってしまいました。
結局このときは、迷っているわたしを見かねた他のスタッフが「右側の扉の一番奥に入れていたのが豚だよ」と声をかけてくださり、さらに、私が伝票の貼り間違えをしないようしっかり見てくださっていたので、取り違えることなくお客様に食事を提供できました。
大きな事態にならずホッとしましたが、ほんの一瞬の手違いでお客様の健康をおびやかす事態になっていたかもしれないと思うと、怖くなりました。わからないときに独力でなんとかしようとして報告や確認を怠ることは、ミスを招く原因だと実感しています。
アレルギー対応のオーダーを頻繁に経験することはありませんが、いつ対応が来てもいいように日頃から余裕を持ってオーダーを回せるようにしていきたいと思いました。ときには周囲に質問したり、協力を仰いだりしながら、配膳ミスが起こらないようにしっかりと確認していきたいです。
考察:CAN EAT顧問・NPO法人 アレルギーっ子パパの会理事長今村氏
ふーりんさんが豚しゅうまいを提供できたことに、ほっとしました。お疲れさまでした。
さて、今回の事例にある「外見が似ているもの」は、アレルギー対応の事故事例で頻繁に登場するものです。しゅうまいに限らず、中華まん、パイのように、外見がそっくりで中身が違う料理や、包装がそっくりなものでも同じようなミスが起こります。
また給食では、食物アレルギーの子どもが可哀そうだからと、ほかの子どもの料理とわざわざ似せて作った料理を間違えて配膳してしまう事例もあるのです。作るだけでなく、届けるところまでがアレルギー対応ということを忘れずにいたいですね。
今回の事例で注目したいのが、「右側の扉の一番奥に入れたのが豚だよ」と少し離れたところから声をかけてくれたスタッフによって、アルバイトのふーりんさんは窮地を脱したところです。こんなとき、サポートをしてもらった側の人(今回はアルバイトのふーりんさん)は、「次回はサポートなしでできるようになろう」と考えるでしょう。これは、仕事を覚える、成長するという視点で考えると当然のことです。
しかし、アレルギー対応を安全に継続するという観点から考えると、一人でできるようになることはリスクになります。世の中では、食器に印を付ける、食器やトレイの色を変えるなど、さまざまなアレルギー対応方法が実践されていますが、それでも間違えて配膳してしまう事故が起きています。要は、一人で行うことがリスクになるので、アレルギー対応におけるミスはコミュニケーションでしか防ぐことができないのです。
少ない人員で回している現場では、他のメンバーに気を遣う余裕すらないときがありますが、そんなときも面倒だとか、迷惑だとか思わず、互いに確認をするようにしましょう。そして、忙しいときでも確認ができる雰囲気づくりが、いざという時に大きな効果を発揮するでしょう。
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